遺産分割協議書の作成

遺産分割協議とは、被相続人(亡くなった方)の財産について、法定相続人全員でどのように分割するかを決める話し合いです。
遺産分割協議には「法定相続人全員」が参加しなければならないので、遺産分割協議をするためにはまず相続人の調査・確定を行う必要があります。
また、どういった財産があるのかわからないと遺産分割の話し合いを進められないので、事前に「相続財産の調査」もしなければなりません。
(くわしくは「相続人の調査・確定」「相続財産の調査」をご覧ください。)


つまり、遺産分割協議書を作成するまでの流れは次のようになります。

  1. 被相続人の死亡(相続開始)
  2. 相続人の調査・確定
  3. 相続財産の調査
  4. 遺産分割協議の実施
  5. 遺産分割協議書を作成

遺産分割協議が必要となる場合

相続手続きは、「遺言書がある場合」と「遺言書がない場合」の2つのパターンに分けられます。
それぞれのパターンに、遺産分割協議が必要となる場合と、不要な場合があります。
遺言書があるかないかで、その後の動きが変わりますので、遺言書を探すことが重要です。
(くわしくは「遺言書を探す方法」をご覧ください。)

遺言書がある場合

基本的に遺言書の内容のとおりに相続財産を分割するため、原則として遺産分割協議は必要ありません。
例外的に、遺言書の内容と異なる遺産分割を行う場合や、遺言書に記載のない相続財産がある場合には遺産分割協議が必要となります。

遺言書がない場合

遺産分割協議が必要です。
相続人が1人しかいない場合には、原則として遺産分割協議は必要ありません。

遺産分割協議の実施

相続人と相続財産を調査し、確定したら、相続人全員で遺産分割協議をします。
遺産の分割は法定相続割合に縛られず、自由に決めることができます。
相続人の人数が多ければ、遠方に住んでいたり、日程調整ができなかったりで、相続人全員が一か所に集まって話し合うのが難しい場合もあるかと思います。その場合でも、ZOOM等を使ってオンライン会議を行ったり、電話やテレビ電話で話し合いをしたり、あるいは手紙をやり取りすることで、全員の意思を確認しなければなりません。

相続税の申告と納税の期限は、被相続人の死亡を知った日の翌日から10か月以内ですから、それまでに遺産分割協議を終わらせる必要があります。
相続人に認知症の方や未成年者がいる場合、成年後見人や特別代理人を選任する必要があり、協議を開始できるようになるまでに時間がかかるかもしれません。
また、遺産分割協議ではそれぞれの相続人の主張もあり、分割方法がなかなか決まらないことも多々あります。協議を何度も行い時間がかかると、相続税の申告と納税の期限に間に合わなくなり、加算税や延滞税がかかることもあります。
できるだけ早めに相続人と相続財産を確定し、遺産分割協議を開始することが重要です。

なお、遺産分割協議を行っても相続人全員で分割方法の合意ができなければ、家庭裁判所に遺産分割調停を申し立てて、調停委員のもとで遺産分割の話し合いを行うことになります。それでも合意できない場合は、家庭裁判所が遺産分割審判を行い、遺産分割方法を指定することになります。

遺産分割協議書の作成

遺産分割協議書とは、相続人全員で行った遺産分割協議の合意の結果をまとめた書面です。

遺産分割協議書の作成は必要?

遺産分割協議書は、法律上作成を義務付けられている書面ではありません。
しかし、遺産分割協議書は、金融機関で預貯金の相続手続き(名義変更・解約払い戻し)を行う場合、法務局で不動産の相続登記をする場合、運輸局で自動車の名義変更を行う場合など、相続手続きを行う際に提出を求められます。相続税の申告にも必要です。
また、遺産分割協議で分割方法を決めたにもかかわらず遺産分割協議書を作成せずにいると、のちに「合意内容が思っていたものと違う」などとトラブルが発生する可能性があります。
のちに相続人間でトラブルが発生することを防ぐためにも、遺産分割協議書を作成することは重要です。

遺産分割協議書の作成方法

記載する内容

遺産分割協議書の書式は決まっていません。
パソコンで作成しても、手書きで作成しても、どちらでもかまいません。とはいえ、手書きですと書き間違えることもありますし、相続人の人数分作成する必要があるので、パソコンで作成される方が便利かと思います。

内容に不備があったり記載された内容が不明確だと、提出先から訂正が求められ、相続手続きが進まない原因となりえます。
遺産分割協議書に必ず記載すべき事項は次の5点です。

  1. 被相続人の名前、最後の住所、最後の本籍地、死亡日

    誰が遺した財産についての分割協議なのか、を明確にする必要があります。

  2. 相続人全員が遺産分割内容に合意していること

  3. 分割する相続財産の具体的な内容

    現金・預貯金・不動産・株式などのプラスの財産はもちろんですが、借金・保証債務などのマイナスの財産もすべてもれなく、どの財産か特定できるよう、正確に記載します。
    不動産に関しては、登記事項証明書に書かれているとおりに記載しましょう。

  4. 作成した日

    遺産分割協議書を作成した日を記載します。

  5. 相続人全員の氏名と住所、実印の押印

    相続人が未成年の場合には、選任された特別代理人の実印の押印が必要となります。

遺産分割協議書の作成後に内容を変更する必要が出てきた場合、相続人全員による新たな合意が必要となります。
遺産分割協議書を再作成するには大変な時間と手間がかかりますし、相続手続きや相続税の申告などが遅れ、トラブルにも発展しかねません。
後日変更点が出ないよう、内容を慎重に話し合ったうえで作成しましょう。

後から新たに財産が見つかるケースもあります。そういった状況に備え、後から見つかった遺産をどのように取り扱うかについても明確にしておくとよいでしょう。
「本遺産分割協議書に記載のない遺産が判明した場合は、相続人〇〇が相続する」等の予備的文言を入れておけば、後に遺産が見つかったとしても、その部分について遺産分割協議をやり直す必要がなく、スムーズに解決できます。

また、相続に関し発生する諸経費を立て替えている相続人がいる場合があります。そういった場合、その清算方法等も記載しておくといいでしょう。

作成する際のポイント☝

①相続人の人数分作成する

遺産分割協議書が完成したら、相続人が各自1通ずつ所持・保管します。
この協議書によって、各相続人が相続した財産の移転手続きなどの相続手続きを行うことができます。
パソコンで作成した場合、人数分の部数を印刷しましょう。

相続人全員が実印を押印する

遺産分割協議書の作成者は「相続人全員」なので、それぞれが自筆で氏名を記入し、必ず実印を押印します。
1人でも欠けると無効になるので注意が必要です。
また、遺産分割協議書には相続人全員の印鑑証明書を添付する必要があります。
遺産分割協議書は相続人の人数分作成し、それぞれに印鑑証明書を添付するため、印鑑証明書を取得する際は、相続人の人数分を請求しましょう。

③実印で契印を押印する

遺産分割協議書が複数ページにわたる場合、その書類が一連のものであることを証明するために、ページのつなぎ目に相続人全員の押印が必要となります。(「契印」といいます。)
契印は遺産分割協議書に押印した印鑑と同じものである必要があるので、実印を押印することになります。
遺産分割協議書のページ数が多く、製本をした場合には、表紙・裏表紙と製本テープとの境目にまたがるように押印することで契印になります。この場合、表裏の両方に押印する必要があることを忘れないようにしましょう。

遠方に住む相続人がいる場合

遠方に住んでいたり仕事等で時間をとれない方に遺産分割協議書に署名押印をしていただくためには、郵便を利用することになります。
その場合は、相続人の人数分の遺産分割協議書を発送し、内容を確認して問題がなければすべての遺産分割協議書に署名押印していただいたうえで、相続人の人数分の印鑑証明書を添付して返送していただきます。
遺産分割協議書は重要な書類ですので、対面で配達をし、受け取りの際に受領印または署名が必要なレターパックプラスを利用するのがいいでしょう。
遺産分割協議書は相続人の人数分を作成し、すべてに署名押印が必要となるので、郵送で行う場合には時間と労力が必要となります。

まとめ

遺産分割協議書は、相続人同士のトラブルを防止するためにも、相続手続きをスムーズに進めるためにも、必要となる書類です。
自分たちで作成することもできますが、相続人を調査・確定し、相続財産を調査したうえで、不備のない遺産分割協議書を作るには、知識が必要であり、時間と手間もかかります。
作成した遺産分割協議書に不備があり相続手続きに使用することができなければ、再作成しなければならなくなり、再度時間や手間がかかるだけでなく、相続税の申告と納税の期限に間に合わなくなり、加算税や延滞税がかかることもあります。

遺産分割協議書の作成に不安があれば、当事務所の弁護士・行政書士へご相談ください。
相続人の調査・確定、相続財産の調査から承りますので、遺産分割協議書の作成をスムーズに進めることができます。
相続手続きでお悩みであれば、ぜひご相談ください。