相続財産の分配 ~遺言執行
相続財産の分配には、
①遺言書の内容に従ってする分配と、
②遺産分割協議書の内容に従ってする分配
があります。
被相続人が遺言書を遺している場合は、基本的に遺言書の内容のとおりに相続財産を分配します。
被相続人が遺言書を遺していない場合、遺言書があったとしても遺言書の内容と異なる遺産分割を行う場合や、遺言書に記載のない相続財産がある場合には遺産分割協議を行い、作成した遺産分割協議書の内容に沿って相続財産を分配します。
今回は、遺言書の内容に従って相続財産を分配する際の注意点等について記載します。
1.遺言執行者がいる場合といない場合
遺言書とは、被相続人が自分の死後、その財産を誰にどのように分配するかを記載したものです。
被相続人が遺言書で遺言執行者を指定している場合は、その遺言執行者が遺産相続に必要な手続きを進めていきます。
遺言執行者とは「遺言の内容を実現するため、相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有する」者のことです。
遺言執行者はその権限内において預貯金の解約手続き、不動産の相続登記手続き、有価証券の名義変更等、遺言書に記載された内容の実現に努めます。
遺言書での遺言執行者の指定がない場合は、家庭裁判所に遺言執行者を選任してもらうか、相続人の代表者が手続きを進めていくか、弁護士や行政書士等の専門家に相続手続きを依頼して手続きを進めていくことになります。
2.遺留分とは
遺言は被相続人の意思であることから、遺言書に記載された内容は優先して実現されるべきですが、遺言であったとしても遺留分を侵害することはできません。
遺留分とは、被相続人が有していた相続財産について、兄弟姉妹以外の法定相続人に保障される相続財産の一定割合のことです。
遺言書が遺留分を侵害する内容であった場合、遺言書によって遺産を引き継ぐよう指定された受遺者等は「遺留分侵害額請求」をされる可能性があります。
たとえば、2人の子(長男・二男)を相続人とする被相続人が「私の財産はすべて長男に相続させる」という遺言書を遺していたとしても、二男は長男に対し、遺産の2分の1の金銭を遺留分として請求することができます。
ただし、遺留分権利者(二男)が遺留分侵害額請求をするかどうかは任意です。受遺者等(長男)に対して遺留分侵害額請求権を行使する意思表示をしなければ、遺留分侵害額に相当する金銭債権は発生せず、遺言書の内容どおり、受遺者等(長男)がすべてを相続することになります。
遺留分は短期間で時効消滅する権利であり、遺留分を算定するための財産の価格の計算方法が複雑です。
遺留分侵害額請求をすることをご検討されている方は、なるべく早く専門家である弁護士にご相談されることをお勧めいたします。
3.遺言書に遺贈する旨の記載がある場合
遺贈とは
遺贈とは、遺贈者(遺産を贈る人)の財産の全部または一部を、受遺者(遺産を受け取る人)に無償で贈ることです。
法定相続人でもそれ以外の第三者でも受遺者になることができますし、法人でも受遺者となることが可能です。
たとえば「遺産は〇〇の団体に寄付をしたい」というご希望があれば、遺言書に「〇〇に財産を遺贈する」と記載することで遺贈できます。
ただし、前述したように「全財産を〇〇に遺贈する」と遺言書に記載したとしても、相続人がいる場合は遺留分侵害額請求をされる可能性があるので注意が必要です。
遺贈手続き
遺言執行者がいる場合、遺言執行者が遺贈の手続きを行います。
遺言執行者がいない場合は相続人が遺贈義務者として遺贈の手続きを行うことになります。
相続人が遺贈手続きを行うことができるか不安な場合には、遺贈者(遺言者)としては遺言の内容を実現してくれる、信頼のできる遺言執行者を指定しておくとよいでしょう。
包括遺贈と特定遺贈、放棄方法
遺贈は生前贈与契約とは異なり、受遺者の同意が必須ではないため、受遺者が遺贈の受け取りを拒否することもできます。
遺贈には、包括遺贈と特定遺贈の2つの種類があり、それぞれ遺贈を放棄する方法と期限が異なります。
包括遺贈
包括遺贈とは、内容を指定せずに、相続財産の全部または一定割合を遺贈することです。
たとえば「全財産を〇〇に遺贈する」や「相続財産の2分の1を△△に遺贈する」とした場合がこれにあたります。
包括遺贈では、割合だけが指定されていて、遺贈される具体的な財産が決まっていないので、受遺者は相続人と一緒に遺産分割協議に参加し、具体的に「どの相続財産をどれだけ引き継ぐのか」を決定しなければなりません。
プラスの財産だけでなく、マイナスの財産(借金等)も引き継ぐことになることにも注意が必要です。
また、前述したように、遺贈される相続財産の割合によっては、相続人から遺留分侵害額請求をされる可能性があります。
包括受遺者は、遺贈を放棄することができます。
包括遺贈の放棄は、自分に包括遺贈があったことを知ってから3ヶ月以内に家庭裁判所へ放棄の申述を行う必要があります。
特定遺贈
特定遺贈とは、相続財産のうちの特定の財産を指定して遺贈することです。
たとえば「相続財産のうち自宅不動産を〇〇に遺贈する」とした場合がこれにあたります。
特定遺贈の受遺者は、遺産分割協議を経ずに、指定された相続財産だけをすぐにもらうことができます。
特定遺贈の受遺者も、遺贈を放棄することができます。
特定遺贈の放棄は、相続人(遺贈義務者)または遺言執行者に対する意思表示によって行います。家庭裁判所への手続きは必要なく、期間の制限もありません。
しかし、特定遺贈の受遺者が、遺贈を受けるのか放棄するのか態度をはっきりさせない場合、相続人などの利害関係人がいつまでも不安定な立場におかれることになりかねません。 そこで、相続人その他の利害関係人は、相当の期間を定めて、その期間内に遺贈を承認するか放棄するかを決めるよう催告することができます。受遺者がその期間内に意思を表示しなければ、遺贈を承認したとみなされます。
4.相続手続きに必要な書類
必要書類は遺言執行者の有無やその選任方法等により異なります。
また、相続手続きをする相続財産ごとに、相続手続き申請書類を取り寄せて記載し、提出することが必要となります。
①遺言執行者がいる場合
- 被相続人の除籍謄本
- 遺言書
- 検認済証明書(※自筆証書遺言・秘密証書遺言の場合)
- 遺言執行者選任審判書謄本(家庭裁判所に選任申立てをした場合)
- 遺言執行者の印鑑登録証明書
②遺言執行者がいない場合
- 被相続人の除籍謄本
- 遺言書
- 検認済証明書(※自筆証書遺言・秘密証書遺言の場合)
- 相続人全員の印鑑登録証明書
5.相続手続きにかかる費用
①遺言執行者がいる場合
遺言書等で弁護士や行政書士などの専門家が遺言執行者に指定・選任されている場合は、遺言執行者への報酬が必要となります。
報酬額については、被相続人が遺言書に記載していることが多いです。
遺言執行者選任申立てにより家庭裁判所が遺言執行者を選任した場合は、報酬付与申立てを行うことにより、家庭裁判所が報酬額を決定します。
②遺言執行者がいない場合
遺言執行者が指定されていない場合、相続人がご自身で手続きを行えば、戸籍や住民票などの必要書類を収集する実費のみで手続きを終えることができる場合もあります。
相続人が少人数で何の争いもなく、相続財産も数種類のみ、という場合には、相続手続きをご自身でされてもよいかと思います。
しかし、相続人の人数が増えると取り寄せる戸籍謄本の数も多くなり、相続財産の種類が多いと、相続財産ごとに相続手続き方法を調査する必要があります。この場合は、弁護士や行政書士等の専門家へ依頼すると相続手続きがスムーズに進みます。
また、不動産の相続登記申請は専門的な手続きですので、司法書士に依頼することをお勧めします。
6.まとめ
遺言書の内容に従って相続財産を分配する場合でも、
誰が相続手続きを行うのか、
遺言書の内容が相続人の遺留分を侵害する場合はどうするのか、
相続財産の遺贈を受けた場合、どのような点に注意すればよいのか、
遺贈の放棄をしたい場合はどうすればいいのか、
など、専門的な知識をもって慎重に判断をしなければならないことがたくさんあります。
また、相続人の中から遺言執行者を選任すると、公平性に問題が生じ、相続人間でトラブルが発生する可能性もあります。
スムーズに相続手続きを進めるためにも、親族間での争いを回避するためにも、遺言執行者に弁護士や行政書士などの専門家を選任することをおすすめします。
当事務所では相続手続きの経験が豊富な弁護士、行政書士が対応いたします。
遺言執行に際してお悩みでしたら、お気軽にご相談ください。